2007年05月28日

[読む]埴谷雄高全集1"安部公房のこと"

 講談社の埴谷雄高全集 1を手にしてみると、埴谷雄高は、安部公房の初期の作家人生に多大な影響を与えた人だと改めて思わされる。
 同全集1に"安部公房のこと"というエッセイがあり、『終りし道の標べに』(原題:『粘土塀』)を阿部六郎経由で受け取り、雑誌に掲載するまでの奮闘振りが以下のように述べられている。
そのころの「近代文学」の編輯は合議制であつたが、その制度には好い点と同時に欠点があつて、どこか一個所でもひつかかつた作品は、どちらかと云えば、落ちてしまうのである。そして、安部君の『終りし道の標べに』のような問題をはらみながらもなお未完成な作品は、どこかでひつかかる危険性があつた。そのことを考え、さらにまた、私はまだ見知らぬ作者の経済状態を勝手に想像して、この作品を「個性」へもちこんだが、そこでも難産に逢着して、私は青山庄兵衛君を、君のところは新しい文学を支援する編輯方針だといいながらなんたる弱気だ、と幾度もおどかしたり煽動したりしなければならなかつた。

 その後、安部と初めて会ったときの強烈な印象なども述べられている。その他にも、"安部公房『壁』"や"石川淳の顔"など、興味深い文章が多数あるので、皆さんも埴谷雄高全集1を手にされることをお勧めする。
 なお、『終りし道の標べに』は、「第一のノート」に相当する部分が1948年2月号『個性』(思索社)に載り、1948年10月10日に真善美社から刊行されている(安部公房全集1所収)。その後、大幅に改稿されたものが、1965年12月10日に冬樹社から刊行されている(安部公房全集19所収)。
[参考文献]
安部公房全集1 [作品ノート1]

posted by w1allen at 20:54| Comment(3) | TrackBack(1) | 安部公房を読みこむ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ご紹介のとおり、埴谷雄高氏の尽力は安部公房にとってまったく幸運でしたね。
私は埴谷氏のほかのことばにも魅かれます。その「安部公房『壁』」の冒頭で
゛安部公房は正当に理解されていない。その作品の位置が、吾国の批評家にはのみこめないからである。゛
と述べていますね。(『終りし道の標べに』を「近代文学」に持ち込まなかったのは「平野謙で落ちるから」とも大岡昇平との対談で述べています)これが書かれた昭和26年からどれだけ現在まで事情は変化したでしょうか。安部公房を回避した作家論集をものする評論家の多いのは笑止です。

埴谷氏はそれに続けて、安部公房の位置付けをみずから試みています。ハイデッガーから出発し、文学的には椎名麟三と埴谷雄高から出発し、アヴァンガルドの先輩・僚友たる岡本太郎と花田清輝を遠く超えて飛びつづけた(「安部公房の発明空間」)と。

「安部公房の発明空間」(1995/8 『ユリイカ』)で最後に、
゛安部公房は、いってみれば或る巨大空間へ向かう途上で飛び去ったが、安部シリコンヴァレーの忽然たる出現と、また、忽然たる廃虚の深く屈折した推移の仔細については、幼年時代からコンピューターの変転する画像とともに成長しきたった新しい批評家の緻密な回答を俟つべき、これからの異色ある深い分析課題である。゛
と結んでいますが、そのようにまだまだ若い方たちの取り組みが期待されますね。
Posted by hirokd267 at 2007年05月30日 00:53
訂正

『ユリイカ』1994/8月号 でした。
Posted by hirokd267 at 2007年05月31日 10:53
hirokd267さん、コメントありがとうございました。
埴谷雄高全集を読み直したものを新規記事として書きました。
[読む]埴谷雄高全集の話の続き
http://w1allen.seesaa.net/article/43739500.html

さて、現在、安部公房は「正当に理解」されているのでしょうか?
私は、まだまだ理解されていないのだと思います。
だからこそ、研究者や批評家は精力的に研究しなければならないのだと思います。そして、私も読者として、作品世界の中をさ迷い歩き続けます。

>みなさま
「安部公房の発明空間」は埴谷雄高全集11に収められています。
また、この件についてのコメントは、上記記事の方でお願いします。
Posted by w1allen at 2007年06月03日 14:28
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