2006年11月29日

[読む]『第四間氷期』と『1984年』を結ぶ糸

初出 2006-11-29
改訂 2016-03-01 1点人名に誤記があったので訂正しました

 最近、『第四間氷期』のことを考えるとジョージ=オーウェルの『1984年』が想起され、『1984年』のことを考えると『第四間氷期』のことが想起されるという困った状態に陥っている。もちろん、『第四間氷期』にBBに相当する人物は描かれないし、『1984年』に予言機械に相当する機械は登場しない。しかし、両作品に何かしらの共通性があるのではないかと思えて仕方ないのだ。それは、以下のような物語の糸が見えるからなのかもしれない。
 まず、縦糸は異端審問だ。物語の中盤で、勝見博士もウィンストン=スミスも囚われの身になり、異端審問を受けることになる。その執拗さは特筆に価するものがある。主人公の思想を、ゆっくり丁寧に、しかし容赦なく否定していく。海底開発協会やイングソック党内部の持つ思想を絶対視して、その思想に疑念を抱く主人公を対話の中で徹底的にうちのめしていく。「何のためにこんなことをする」という主人公の叫びや疑念には、切迫したものを感じる。
 そして、横糸は歴史に対する情報操作だ。二次予言値を使って勝見を否定するが、あれはトリックで海底開発協会に都合のいい二次予言値を使ったに過ぎない。勝見が真実を世間に公表する未来は、世界がパニックに陥るという理由で、二次予言値として見なされない。そして、勝見に関する三次予言値もしくは最大値予言には全く触れられないまま、暗殺者によって殺される予定であるらしい。一方、オセアニアでは、正しい歴史をつくるために常に文書は改ざんされていく。ウィンストン=スミスの担当していた仕事がまさしくそれであり、変更指示に忠実に従い、捏造の証拠を残さず、タイムズを書き換えていく。正しい未来と正しい過去と対比していいのかも知れない。しかし、それぞれ、「海底開発協会にとって都合のいい」、「オセアニア政府にとって都合のいい」という修飾語がつくはずだ。
 異端審問と情報操作以外にも、まだ両者をつなぎ合わせる糸屑は残っている。頼木の裏切りとオブライエンの裏切りには似たようなものはないだろうか?風の音楽にあこがれを抱く水棲人と一パイントのビールに興味を持つウィンストン=スミスは、どこか似ていないだろうか?それでも、両者の結び付けを否定する方は、モスクワ2号の予言をもう一度思い出して欲しい。それが以下のようなものであったことを・・・・・・。
「モスクワ2号の予言、お聞きになりましたか?なんでも三十二年以内に、最初の共産主義社会が実現し、一九八四年頃に最後の資本主義社会が没落するだろうっていうんですが、先生、いかがでしょう・・・・・・?」



posted by w1allen at 19:19| Comment(6) | TrackBack(1) | 安部公房を読みこむ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。突然で申し訳ございません。

アメリカの大学で演劇を勉強している者です。たまたま図書館にて阿部公房氏の「緑色のストッキング」の英語版を見つけ、その中からシーン3の男のモノローグをクラスの期末試験で扱うことにしました。

そこで、原作である日本語版をインターネットで探しているのですが、絶版ということもあって未だ遭遇しておりません。

そこで、もしお手元に緑色のストッキングがございましたら、そのシーン3の部分の劇本を写してメール送信していただけませんでしょうか。

冬に帰国する予定もあるので、その際にお礼を差し上げたいと思っておりますので、もしご縁がございましたら、返信のほうをお願いいたします。

菊地原 清子
Posted by Kiyoko at 2006年12月02日 05:37
Kiyokoさん、こんにちは。
新潮社刊の安部公房全集の中にあると思います。アメリカの図書館事情はわからないですが、それを探されるのが一番早いと思います。
当方では、複写等の受付はしていません。あしからず、ご了承ください。
Posted by w1allen at 2006年12月02日 19:49
アレンさん。
コメントありがとうございます。
安部公房の全集ですね。
リサーチしてみたいと思います。

今まで、安部公房の作品に興味が大してなかったのですが、これをきっかけに少しずつ読んでみようと思っています。

ありがとうございました。
Posted by Kiyoko at 2006年12月06日 08:28
Kiyokoさん
「緑色のストッキング」は、安部公房全集25巻に収録されています。詳しくは、以下のサイトを参考にしてください。
http://www.bk1.co.jp/Sakuhin.asp?ProductID=1701727
Posted by w1allen at 2006年12月06日 19:21
アレンさん、ご無沙汰しています。
とても気になる記事でした。すぐにもコメントをと思いつつ、今日まで......。
『1984年』は、友人に強く勧められた本です。その後、手に入れるたのですが、始めの方を読んだだけで.....。ただ、その雰囲気と言い、また別の『動物農場』と言い、どことなく、『第四間氷期』を思い出していました。それが、こんな形でリンクしているとは......いえいえ、結論が早すぎることは百も承知.....。
ところで、この『1984年』が原作と言われる、テリー・ギリアム監督の『未来世紀ブラジル』、未見でしたら、ぜひご覧になって下さい。
Posted by marmotbaby at 2006年12月12日 23:12
marmotbabyさん、お久しぶりです。
『未来世紀ブラジル』は、私も大好きな映画です。強烈なブラックユーモアとトリッキーな映像美に圧倒されてしまいます。管理社会の恐怖という点で、『1984年』と重なる部分が多い作品です。

『動物農場』は『1984年』と双璧をなすオーウェルの傑作だと思います。動物を介した平易な文体で、イデオロギー闘争という重苦しいものを描く力には驚嘆します。他の作家には真似できない芸当だと思います。

さて、『1984年』はやはりスゴイ作品です。異端審問を通じて、異端者個人だけでなく「異端者」という存在自体を抹殺してしまうのですから。
是非、続きを読まれることをお薦めします
Posted by w1allen at 2006年12月15日 19:36
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