2011年11月12日

方舟思想ー映画「生きものの記録」[エッセイ](全集5巻)

これは、2001/11/18に書いた文章です。
http://www.geocities.co.jp/Bookend/2459/zenshu/com005.htm
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 安部はノアを異常なまでに憎悪していた。それは、「S・カルマ氏の犯罪」、「洪水」、「ノアの方舟」といった作品でのノアの扱い方を見ればわかることである。何故これほどまでに聖書における伝説上の人物とその物語を忌み嫌わねばならなかったか、これは安部の思想を探る上で非常に興味深い事象である。このエッセイでは、黒澤明監督作品「生きものの記録」を『これも一種の「大洪水物語」である。』と書き出して、ノアへの憎悪の理由を語り、それは方舟思想にあると言っている。ノアが何故エホバに選ばれ生き残ることを許されたのか?ノア一家をのぞいた全人類が否定されなければならないのか?ノアは本当に汚れ無き人間だったのか?そんな疑問を一切はらしてくれない聖書に対する苛立ちと憤りを述べている。
 結局、「生きものの記録」も方舟思想を擁護した作品になってしまった点を批判し、『ガラス越しに御馳走を見たようで、まことに残念でならない。』と締めている。では、果たして安部は方舟思想から抜け出せたのであろうか?「ノアの方舟」はパロディーでしかない。長い創作活動の中、苦しみ抜いて出した答えが「第四間氷期」と「方舟さくら丸」だと思う。両作品にノアは直接出てこないが、暗示させる人物はでてくる。しかし、方舟思想に反発する形で、前者では「風の音楽」にあこがれ地上に戻る水棲人類を描き、後者では多くのノア達による騒乱劇を描いている。しかし、私には今なお方舟思想が地下で生きのびているように思えてならない。それほどまでに、人間の心の奥底までに忍び寄っている思想なのだろうと思う。
ラベル:全集 黒澤明 ノア
posted by w1allen at 14:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 安部公房を読みこむ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする